好きですか? いいえ・・・。
私はまた一礼して、カツカレーにスプーンをくぐらせた。銀のスプーンに乗ったカレーライス。口へ運ぶ。
なんだ! なんだこれは! 美味い! 美味すぎる!
甘過ぎない、ピリッと辛いルーに、一粒一粒確認できるライスの甘みが口の中でちょうどよく、まるで漫才師の兼ね合いのように、お互いが主張しつつも、それがいいハーモニーとなって、頬が緩む。綻ぶ。
そして、今度はスプーンでカツを一口大に切る。ホロッと切れて、カレーライス・オン・カツ。口へ運ぶ。もう……声にならない。しっとりとしたカツから、太るってわかっていてもそこに罪悪感を抱かない肉汁が染み出てくる。今度は緻密に作り上げられたトリオのコントのよう。ああ、もうカツカレーを食べられる幸せを二つの意味で噛み締めている私。
私は今、世界中で一番幸せかもしれない。
「十志子ちゃん!? なんでカツカレー食べながら泣いてるの?」
「泣くほど美味しいからです……グスンッ。」
汗が噴き出てくるこの感じ。でも、やめられない、止まらない。カツカレーのお風呂に入りたい。浴槽一杯のカレーライスに抱き枕くらいの大きさのカツを乗せて、それを抱きながら、洗面器で喉に流し込みたい。
車椅子になってよかったとは思わないし、これからも思えない。でも、こういう小さなことなのに、そこには大きな幸せが詰まっていることに気づけたのは、本当によかったと思う。
わずか10分で完食。人生で一番美味しいカツカレー。いや、人生で一番美味しいお昼ご飯だった。