好きですか? いいえ・・・。
保健室に戻ると……ん、戻るかあ……。
学校での私の居場所がいつの間にか保健室になっていることに、ぶつけようのない怒りと、その後からやってくる悲しみで、思わず目の前のテーブルの脚を蹴ってしまいたくなる。でも、私の脚は動いてくれない。
「どうして急に軽音部のライブを観に行きたいなんて言い出したの?」
山辺先生が対面に座って、訊いた。
「まだ歩けていた頃、よく観に行ってたので……。」
……友達と。
「そう……。で、気分転換にはなった?」
なるわけがない!
ただでさえ、彼との恋が実るかどうかわからなかったのに、それに拍車をかけるように歩けなくなった。歩けない女の子を一体誰が幸せにしてくれるっていうんだ!
山辺先生は、テーブルの上で指を組んだ。その左手の薬指には、シルバーリングがはめてある。確か新婚。
昼の光に夜の闇の深さがわからないのと同じ。幸せな人に不幸な人の気持ちがわかるもんか!
「まあ、はい……。」
思ったことを思ったままに言えたらどんなにいいだろうって思う。間違えず、一字一句丁寧に。彼のことが好きだって気持ちをそのまま表せたらどんなにいいだろうって思う。でも、表せたところで、私の恋は叶わない。
だって、歩けないのだから。