好きですか? いいえ・・・。
ギターを聴く。
「アコギ? なんでまた?」
「なんで?」と訊かれると答えに困る。「好きな人を振り向かせたいから。」なんてとてもじゃないけど言えない。ましてや落合くんになんて、とても。
だって、口軽そうだし。
何か適当な理由を決めなきゃいけない。適当な理由。しかも、落合くんのようなバカが食いつくような適当な理由……。
「そのアコギを見た瞬間、なんだか音楽が私を呼んでるような気がしたんだよね……。」
落合くんの目が輝いた。嘘にしては我ながら上出来だったなと思う。
「そうか、そうか、財満さん。キミもとうとう音楽の良さに気づいたかね!」
うんうんと二度大きく頷いた落合くんは、ギターケースをその場に降ろして、すっかり減ったスーツケースの中身を背負いやすいリュックに詰め込む作業を始めた。
「音楽のことなら任せてよ!」
「その代わり、勉強はみっちり見てあげる!」
「こういうのって等価交換って言うのか?」
「多分ね。」
等価交換にできるくらい、私はみっちりと勉強を教えてあげなきゃいけない。そして、この金、土、日を有効に使って、アコギを弾けるようになりたい。
川上昇くん。彼の好きなテイラーに近づくために。