好きですか? いいえ・・・。
家の周りは、ほとんど田んぼで、たまに古い民家が点在している。田園風景と呼ぶには、少しおこがましいけど、お世辞にも都会とは言えない。そんな景色を見て、その中で私は育った。
だから路上ライブなんて言っても、所詮は子供たちの遊び場になっている近所の公園で弾くくらい。もちろん、人なんて集まらないだろうし、お金をもらうこともできない。
落合くんはベンチに座って、ギターケースからアコースティックギターを取り出した。私はベンチの横に車椅子を止めて、それをただじっと見ているだけ。
それにしても、大事にしてるなあ。アコースティックギターを。まるで生まれたての我が子を抱いているパパみたいに見える。こうやって物を大事にできる人は、人も大事にできるんだろうなあ。そういえば、ロックが好きとかなんとか言ってたけど、本当はこういうバラード系のゆったりした音楽の方が落合くんには向いてそうだと思う。
「ねえ、何か別の曲弾いて見せてよ。」
「別の曲? んー、じゃあ今度は少しアップテンポなやつにするか。」
そう言って、チューニングを終えた落合くんは、ギターのボディをピックで「1、2!」に合わせてコンコンと叩いて、弾き始めた。