好きですか? いいえ・・・。
「さーせん。ちょっち、バンソーコー貸してくださーい!」
顔を上げると、入口でもあり、出口でもあるドアの前にギターケースを担いだ男子が立っていた。自分の脚で立っていることに
「もう立てることを見せつけなくてもいいから!」
と思わず叫びたくなったけど、思い留まった。私は今、泣いていて、その泣き顔をその男子が不思議そうに見ている。
「あれ? あー! だ、大丈夫……ですか?」
彼が慌てて私に駆け寄って、でも、何もできなくておろおろとしている。そうだろうなあって思う。車椅子から転げ落ちた人と遭遇するなんてそうそうないし、それが異性だった時、抱えていいものかわからない。
「大丈夫……です。」
私は車椅子に向かって手を伸ばした。思った以上に出血していて、慌てて手を引っ込めて彼を見た。彼の目は点。
「血出てる……出てますよ?」
「知ってる。」
私はスカートで血を拭った。ズキッと痛む。顔を歪ませた。彼も同じように顔を歪ませて、声には出さなかったけど口は「痛たたたたっ。」って感じ。
人の痛みがわかる人なんだなって思う。