好きですか? いいえ・・・。
私は言われた通り、さっきと同じように弦を思いっきり押さえて、かき鳴らした。
左手の親指、人差し指、中指で持ったピックを上から下に。それを繰り返すだけで、音が鳴る。寂しい音が鳴る。でも、弾くたびにどんどん楽しくなる。
私は今、ギターを弾いている。Emというコードを弾いている。大好きな彼、川上昇くんが好きなテイラーのようになれているのだろうか。わからない。でも、私は今、ギターを弾いている。
公園でブランコを漕いでいた子供たちが私の周りに集まって来た。
「お姉ちゃん、何やってるの?」
私は笑顔で答えてやる。
「お姉ちゃんはねー、ギターを弾いているんだよ。」
そう。財満十志子は今、ギターを弾いている。車椅子に乗って、ギターを弾いている。
陽が沈みかけている中、Emをかき鳴らす。バカみたいに。それを落合くんが腕を組んで、目を閉じて聴いている。私はギターを弾いて、落合くんは私の音楽を聴いている。
落合くんも川上くんも魅せられたもの。そうか、これが音楽ってヤツなんだ。
この感動を絶対に忘れてはいけない。そう思った。