金木犀の君
水曜日。
雲の隙間からまるで水色の絵の具を水でぼかしたような空が見え初めた。
「菜穂ちゃん、おはよう。今日もジメジメして嫌だね〜。」
由貴が自分の手をパタパタさせながら言う。
「おはよー由貴。ほんとにね〜。涼しくなるか暑くなるかはっきりしてほしいね。」
「ふふっ。由貴ちゃん小学校の頃からはっきりさせたがりだもんね。」
「なによぉ。だってジメジメ嫌なんだもん。早くおっきいひまわりみたいな太陽、出てくれないかなぁ。」
「そうだね。やっぱり晴れの日が1番だね。気分も明るくなるし、特に菜穂ちゃんの。」
由貴の優しい笑顔を横目に、
「晴れの日が1番だよっ。」
と1時間目の授業の用意をしながら私は言った。
朝のチャイムが鳴り、ホームルームが始まる。教室の窓から校門を見るとチャイムと同時に慌てて学校に駆け込む生徒が見えた。
ガラガラっと教室のドアが開き、担任の神崎先生が入ってきた。
「おはようございまーす。はいはい座ってくださーい。静かにしてくださーい。」
どう見ても新人教師っぽい神崎先生だが、その見た目とは裏腹に慣れた呼びかけでクラスをまとめる。
「おはようございます。今日はニュースがあって、皆さんに新しいクラスメイトが増えます!」
先生がはっきりとした大きい声で言うと、教室は一旦静まったが、すぐにドヤドヤと興奮した期待の空気でいっぱいになった。
「まじかよ!!女子!?女子!?」
「違いまーす!」
「はあー?なんでだよー!」
「先生にそんなこと言わないでくださーい!」
「男子だって、かっこいいのかなぁ!♡」
「菜穂ちゃん!転校生だって!もしかしたら…」
少し高鳴った胸に戸惑いながら、私は由貴と同じことを考えていた。