私の正体、バレてたまるものですか

「お待たせしました！落ち着きましたので、もう大丈夫です。ご迷惑おかけしました。」

「そうかい。じゃあ始めようか。」

数分休ませてもらって回復。
監督のところへ行き、報告。
そして撮影開始となった。

今回はドラマの撮影。
舞台は学校。ある都立高校を借りている。
学園ものらしい。だから、今回は同い年の役者も多いほう。
個人的には嬉しいが、仕事としては少しやりづらいかもしれない。
今まで学校へもあまり行けなかったし、大人や年上、年下との共演が多かったため、あまり同い年とは接していない。だからうまく過ごせるか、少し心配。

「始めるぞ！」
監督の声を合図に撮影が始まる。
みんなは一斉に準備する。
私は用意された椅子に座ったまま。
序盤は回想らしい。
だから今は私ではなく、私が演じる主人公の幼い頃役を演じる子役の演技。

(今って演技うまい子供多いんだな。私が子供の頃は”栗宮凛”も含め、数える程しかいなかったのに)

「お母さん？お母さん…？どこ…？」

今回の主人公は幼い頃、親に捨てられてしまう。
育てたいけど、自分の力では育てられない。そう思った主人公の両親は仕方なく捨てることにした。
そんな心に大きな傷を負った主人公の話だそうだ。

子役は役になりきり、悲しみに暮れている。不安と恐怖、悲しみが入り交じった表情。

(………。)

そんな子役をみていると、訳の分からない逃げられない闇に吸い込まれていくような気がした。