つぎの春には…
その言葉に俺は立ち上がると、それに倣い少年も立ち上がった
「どうぞ」と女将が中に入るよう促す
今日の相手は…
「杏!?」
相手を確認し先ほどの少年と博之のような顔をした
「高梨様にお呼ばれしたのよ」
楽しそうに微笑む杏
そう、今日の会食の相手は高梨社長
プレゼン後、すぐに契約が決まり、何度か打ち合わせや会食などで良くしてもらい、たまには昼食でもということで今日をセッティングした
高梨社長が1人連れて行くと言っていたからてっきり社員の人だろうと思っていた
まさか杏とは…
「悪いね、兼元君、ビックリさせたくて、内緒にしといたんだ」
こちらも楽しそうに微笑みながら入ってきた
「本当にビックリしました。実は僕も急遽、1人連れてきています。」
高梨社長が席に着いたのを確認し座る
それに倣い少年も座る
「こちら蓮池海斗。今日は社会勉強です。」
高梨社長に少年を紹介する
「ほう、青春時代が懐かしいね」
高梨社長は事情を察してくれたようだ
「海斗くん、こちらが高梨社長と隣が日下杏。取引先の社長と大学時代からの友人」
少年に高梨社長と杏を紹介する
「蓮池海斗です」
ペコっと頭を下げる少年
「ん?」
杏が首を傾げる
「蓮池…?あ、栞さんの息子さんか」
どうやら気が付いたようだ
まぁ、『蓮池』って多い苗字ではないし、杏なら『蓮池』と言わなくても気付きそうだ
「栞さん?」
今度は高梨社長が首を傾げる
「栞さんは拓ちゃんのお付き合いしてる方です」
「なるほど」
ニヤニヤと2人して俺を見る
少年は杏を訝しそうに見つめている
逃げ出したい俺
「海斗くん、杏も栞と会ったことがあるんだ。今日帰ったら会ったこと言ってみるといいよ。きっと嬉々として聞いてくれるから」
栞と杏は意気投合したのか頻繁に連絡を取り合っていて、食事に行ったりもしているようだ
「そういえば、海斗くんの制服…私の母校!」
「え?杏、U高だったの?どうりで…」
その先は言葉にしたくなかったが、高梨社長の「どうりで?」という言葉に言わざるを得なくなった
「大学の時、講義とサークル以外の時間はカメラ触ってるかバイトしてるか飯食ってるかしか見たことないのに、一度も首席を譲ってもらえなかったんですよ」
「いいライバルでもあったんだね」
ふふふと楽しそうに高梨社長が微笑む
それからも高校時代や大学時代のバカな話など他愛もない話で盛り上がった