つぎの春には…
おかげでここの課長が元旦那かもと気付くのに時間はかからなかった
それもここに着いた時の海斗くんの反応で確信へと変わった
少年はギュっと拳を強く握り締めている
「元気にしてたか?栞と明(あかり)も元気か?」
「…るせぇよ。何心配してるフリしてんだよ」
少年は更に拳を強く握り、声を絞り出す
「あの時は悪かったと思っている。もう一度やり直したいと思っているんだ」
わお!初耳!
もしかして会わせるべきじゃなかった?
「俺たちを…母さんを捨てておいて、何今更言ってんだよ!2度と俺たちに関わるんじゃねぇ」
よし!少年の気持ちは聞けた
「はい、落ち着いて」
ポンっと少年の肩に手を回す
「蓮池課長、1度捨てた物はよほど欠陥品でもない限り、もう2度と戻ってはきませんよ?栞と海斗くんと明ちゃんのことは僕が責任を持って守り、愛しますのでどうぞご心配なく。」
「では失礼します」と少年と共に呆然とする課長を横目に会議室を後にする
昔の課長がどんなだったか知らねぇが、今じゃただの中年オヤジだな…
「おい…あんた知ってたのか?」
走り出した車の中で少年が俺に問う
怒ってるのか?
チラッと横を見るが相変わらず窓の外を見ていて感情を読み取れない
「なにが?」
聞きたいことは分かっていたが、質問で返す
「あいつが俺の父親だって」
「どうだろうねぇ…なぁ、知ってる?子どもが無事に生まれる確率ってすげぇ低いの。セックスしても精子と卵子が出会わなければ受精しないし、うまく受精したとしてもその受精卵が着床しなきゃ妊娠しない。妊娠したとしても上手く育たずに流産や死産になることもある。子どもが生まれるって奇跡なんだ。」
相変わらず窓の外…
こんなこと学校で教わって知ってるか…
「その奇跡をあいつは捨てたんだ。」
「ああ、そうだな。おかげで俺が栞と…その奇跡たちと出会えた。」
少年の傷はどれ程深いのだろう…
「守っていくよ。一生、命をかけて」
少年に誓う