つぎの春には…
「ただいま」
少年が自宅の玄関の戸を開ける
少年に続き玄関に足を踏み入れる
栞と栞の大切な家族たちの空間に冷えた体が温まる
会社に車を戻し、ここまでの道中では少年とはほとんど会話はなかったが、少年の表情はコンビニで会った時よりも晴れていた…と思う
「海斗おかえり~」
キッチンから栞が出てきて出迎える
「あら…」
少年の後ろに立つ俺をみて動きを止める
「拓もおかえり」
そして温かい笑顔で嬉しくなる言葉をくれる
「ただいま」
ここは俺の家ではないし、まだ家族にもなっていないが、いつか本当の家族になれたらいい
「ご飯もうすぐできるから、海斗は着替えてらっしゃい。」
頷き自室へ入る少年を見送り、栞はキッチンへ戻っていった
その後を追いキッチンを覗く
「ご飯食べて行くでしょう?今日は鍋だから大勢の方が楽しいし」
「もちろん」
楽しそうに土鍋に食材を詰めていく栞を見て思わず頬が緩む
ここにくるのは2回目だが、栞の料理を食べるのは初めて
楽しみじゃないはずがない
「あ、拓さんいらっしゃーい」
少年の入った隣の扉から栞の娘、15歳の明が出てきた
少女に会うのも2回目だが、随分と懐かれているようだ
「明ちゃん、こんばんは」
「こんばんは」
栞にそっくりな笑顔で挨拶を返し俺の隣でキッチンを覗き込む
「明、もうできるからお箸と取り皿運んでくれる?」
そう言って少女に4人分のお箸と取り皿を手渡す
受け取った少女はダイニングへ入り、真ん中にカセットコンロが置かれたテーブルに並べ始めた
「拓はこれね」
笑顔で2個のグラスと冷蔵庫から取り出した冷えた缶ビール
そうそう、まずはビールだよな
笑顔で受け取り、少女に続きダイニングへ入る
「拓さん、ここどうぞ」
と、4人掛けテーブルの1つの席を示す
「ありがとう」
その席へ腰を下ろし、手にしていたビールとグラスをテーブルに置くと、正面に座った少女の手が伸びてきてビールを取り上げる
プシュっとプルタブを上げ「はい」とこちらに缶の口を向けた
「ありがとう」
なんて気がきく少女だ…なんて感心しながらグラスを出す
「お先にいただきます」
少女によって注がれたビールの入ったグラスを栞の方に掲げ、口へ運ぶ
目が合った栞は微笑みながらこちらを見ていた