つぎの春には…
「ズルいって言われても、将来の親父に連れて行かれたんだよ」
息子に呆れたように言われ肩を落とし、こちらを恨めしそうに見る
「いや…今日は高梨グループの社長と昼食だったんだけど、高梨社長が杏を連れてきたんだよ」
慌てて弁明する
除け者にしたと思われては困る
「あら…高梨社長?海斗、粗相してないわよね?うちのお客様なのよ」
あら、こんなところにも繋がりが…
「大丈夫だよ。高梨社長も終始楽しそうにしてたから。」
粗相を心配され不機嫌な少年の顔を立てるように微笑む
「ねぇねぇ!杏さんてお母さんが最近よく遊んでる人?」
突然、少女が割って入る
「そうよ。とっても可愛いのよ。そうだ、今度紹介するわね」
と、嬉しそうに話す栞
…なにこの杏に負けてる感じ
まぁ、彼女が親友と仲良くなってくれるのはいいことか…
「あと…」
少年が再び口を開く
「あと?」
栞が先を促す
「…昔の親父に会った」
しん…と時が止まったように静まり返る食卓
「戻りたいって言ってた…」
カタカタと少女の持つ呑水と箸が震え音を立てる
その顔に見えるのは恐怖…
「大丈夫だよ。海斗くんが二度と関わるなって言ってくれてたから。」
箸を持つ右手をテーブル越しに左手で包む
恐る恐る顔を上げる少女に可能な限り穏やかな微笑みを見せる
「将来の親父が俺たちを守るって言ってたけど?」
白米を箸で口に運びながら少年が言う
「もちろん。栞と君たちがそれを許してくれるならね」
少女の震えが止まっていき、大きな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる
栞に似て頭の良いこの子たちは忘れられない過去の恐怖と人知れず闘っていたのだろう
隣では栞も同じ様に涙を流している
彼女もまた子ども達を守ることに必死だったに違いない