つぎの春には…
「…ちゃん…拓ちゃん着いたよ」
杏の声に目を覚ます
隣にはぐっすりと眠るチャイルドシートに座った果奈
窓の外はすっかり日の暮れた見慣れた景色…
あぁ家に着いたのか
「よく寝てたね。途中コンビニ寄った時も起きなかったし…あ、栞さん出てきたよ」
杏の視線を追って、マンションのエントランスから出てきた栞の姿をとらえる
「栞さん、こんばんは」
杏が助手席の窓を開け栞に挨拶をする
「杏ちゃんこんばんは。拓を乗せてきてくれてありがとう。果奈ちゃんはぐっすりね」
開けられた窓から中を覗き込み、微笑む
その姿にふっと余計な力が抜けたように体が軽くなる
「杏、ありがとな。また連絡するわ」
そう言って荷物を持ち車を降りる
ドアを閉めると「またね~」と杏の声を残し車が走り出した
栞の横に立ち、赤い車が角を曲がるまで見送る
「おかえり」
杏の車が見えなくなって、俺にかけられた言葉
隣を見ると俺の好きな微笑みが俺を見上げている
栞が手を出し「帰ろ?」と首を傾げる
「ただいま」
栞の手を握り締めマンションの中に入る
家の中に入るともうすっかり馴染んだ匂いと空気に包まれる
「拓さんおかえり~」
リビングでソファに座りテレビを見ながら寛いでいた明に出迎えられる
高校生になり、随分と大人っぽくなった
短パンにタンクトップというラフな格好は義理の父親となった俺に気を許している証だと思っておこう
栞の家族にも受け入れられていると実感できるのは何年経っても嬉しいと思う
「ただいま」
明に返事をし、荷物を片付けに再びリビングを出る
実家で洗濯は済ませてきたので、栞と俺の部屋に入りクローゼットに服とカバンをしまう
リビングに戻る前に大学生になった海斗の部屋を覗く
「ただいま」と声をかけると夏期講習の試験勉強をしていた海斗がこちらを振り返る
大学の夏期講習…懐かしいな5日間で単位貰えるから美味しいんだよな
「おかえり」
海斗は握っていたペンを置き、立ち上がりこちらへ歩いてきた
「勉強もういいの?」
「うん、大して難しい内容じゃないし、拓さん帰ってきたから夕飯になるでしょ」
そう言いながら俺の横を通り抜けリビングに入っていく