つぎの春には…
海斗に続いてリビングに入るとダイニングテーブルに栞が食事を並べていた
今日のメニューは俺の好きな親子丼…と味噌汁とサラダと煮物
「さ、食べましょ」
準備を終えた栞が席に座るよう促す
「いただきます」と各々が手を合わし、食事を開始する
「明の夏休みの終わりにさ、旅行でもしない?」
突然の俺の提案に3人が箸を止めて注目する
高校生の明の夏休みは残り1ヶ月程
「するーー!」
真っ先に賛成する明
「いいけど、どこに?」
冷静に行き先を尋ねる栞
「温泉でも行こう」
癌に侵された肺で観光とか歩き回ることはキツそうなのでゆっくり温泉がいい
「まぁいいんじゃない?」
海斗も賛成する
「んじゃ宿は予約しとくね。免許取りたてホヤホヤの海斗の運転ね」
運転まで押し付ける
海斗は大学入学前の春休みから自動車学校へ通い始め、5月くらいに免許を取得していたがまだ数える程しか運転していない
旅行当日は栞の夏季休暇に合わせ俺は有給を使い人が少ない平日にした
車に荷物を積み込み乗り込む
もちろん俺は助手席に
海斗は「本当に俺の運転なの?」と文句を言いながら運転席に乗る
心配そうな表情で運転席の後ろに座る栞とその横でさっそくお菓子の袋を開けている明
この旅行が4人で行ける最後の旅行になるかもしれない
目的地は車で2時間程の温泉地
途中高速のサービスエリアで休憩もとり、無事温泉地へ到着した
まだ予約した旅館のチェックインには早いので、コインパーキングに車を停め昼食と観光をしてから宿に行くことにする
「ねぇ、あれ杏ちゃんじゃない?」
昼食を食べる店を探しながら歩いていると、突然明が前方を指で示す
はぁ?ここでも杏かよ…
「「「本当だ」」」
明の指し示した方を確認し3人声を揃える