つぎの春には…


翌日、癌と闘うべく栞のいる家を出る


泣き腫らした顔で「いってらっしゃい」と笑顔で見送る栞を抱きしめる


「ごめん」


それだけ言って栞から離れ後ろは振り返らずに歩く


『いってきます』も『必ず戻る』なんて言葉も口にはできなかった



俺が生きられる確率は50%…以下






電車で空港に着くとコンピュータートラブルで飛行機が大幅に遅れていた


椅子に座り動き始めるのをひたすら待つ



癌を宣告されてから1ヶ月放置した肺は痛み、少し歩いただけで苦しくなる





2時間遅れで動き出した飛行機が地元の空港に着いたは夕方だった


今日は実家に帰り、明日病院に行くことにする


光に電話をすると滅茶苦茶怒られた






実家に着き、自分の部屋で荷を解く


その中に1通の手紙を見つける




『拓へ』と封筒に書かれた綺麗な字を見て朝、別れたばかりの栞に会いたくなる



封を開け中身を取り出すと香った彼女の匂い




『拓へ

私と出会ってくれてありがとう

私を選んでくれてありがとう

たくさんの愛をありがとう

子ども達を愛してくれてありがとう

いつも子ども優先でなかなか2人の時間もとれないのに文句ひとつ言わないでそばにいてくれた拓に感謝してるよ

拓に出会えたことでまた笑って過ごすことができるようになったんだよ

私にたくさんの幸せをありがとう

今、そばにいて支えるべきなのについていくことができずごめんなさい

でも私の知ってる拓は病気なんかに負けないって信じてる

またみんなで笑って過ごせる時がくるって信じてる

今まで私たちのことを1番に考えてくれた拓

今は1番に体のことを考えてください

春になったらまた桜見に行くんでしょ?

いつまでも私はここで待ってる

最愛の拓へ 栞より 』



溢れる涙にまだ生きてるなと実感する


ポケットから携帯を取り出し電話をかける



「拓?」

泣いていたのだろうか


鼻声の栞が出る


「栞?俺。たくさん泣かせてごめん。ちゃんと栞のとこに帰るから待ってて」


朝は言えなかった言葉を口にする


「うん」

見えないけれどそう言ってまた涙を流す栞





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