つぎの春には…


翌日から俺と癌の闘いが始まった


光からまずは検査入院だけど、そのまま治療に入るから長期入院の準備してこいと言われていたので大きな荷物を持って病院へ行く


まだ昼間は暑く実家から徒歩5分という距離なのに病院につく頃には汗ばんでいた



入院の受付を済ませ病室に案内されるとすぐに光が現れ、あらゆる検査へ回された





「初日からハードね…」


全ての検査を終え病室のベッドに伏せ様子を窺いに来た光に抗議する


「1ヶ月も放置しとくからだろ」


俺の左腕に繋がれた点滴の速さを調整しながら答える光


「検査室のヤツらに一晩で結果出せって言ったから明日には治療の方針も決まって開始する」



「今日はしっかり休んどけ」と言葉を残し去っていった


そのまま目を閉じると眠りに吸い込まれていった







光の予告通り、検査結果から治療方針の説明を受ける


癌は極端な進行はしていないものの、確実に俺の体を蝕んでいた


まずは抗癌剤から始め様子を見ながら放射線治療もしていくということになった




抗癌剤投与が始まると連日の嘔吐


そして抜け落ちていく髪に少なからずショックを受ける


治療が始まり2ヶ月くらい過ぎた頃に、そういえば杏に言ってなかったと思い出し、電話をかける


「もしもし拓ちゃん?」


変わらないその声に少しホッとする


「よぉ」


「やっと連絡くれたと思ったら、随分弱ってるのね」


どうやら栞から病気のことを聞いていたようだ


「知ってんなら話早いわ。そっちに帰れなかった時は栞のことよろしく頼むわ」


連日の副作用で滅入ってた俺はかなり弱気なこと言ってるなと自分で言いながら自嘲する


「なーに馬鹿なこと言ってんの!ちゃんと帰ってきて自分で見なさいよ!自分の子でしょ!?」


「は?」


え?なに?俺の子?


訳が分からず間抜けな声を出す


「え?なに?栞さんから聞いてないわけ?」


栞とはたまに電話もしてるが、海斗と明の話がほとんどだ


「栞さん今3ヶ月よ」


まさか…


俺の子ども?


「父親が子ども生まれる前に死ぬとかやめてよね」


そんな文句を言いながら杏は通話を終了させた


俺が父親…


溢れる涙に絶対に帰るんだと決意する


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