つぎの春には…



「拓ちゃんこっち!」


病院に着くと入口で待っていた杏に呼ばれる


杏に連れられて栞が今頑張っている分娩室の前に行くと学校帰りに駆け付けたとみられる海斗と明の姿


「拓さん!」


俺の姿を確認し駆け寄ってきた2人を抱きしめる


「ただいま。待たせてごめん」


海斗は男っぽくなったし、大学生になった明は大人になっていた…相変わらず泣き虫だけど




「栞さん、分娩室入って2時間半になるけどまだ生まれなくって…」



その時、分娩室の中から赤ん坊の泣き声が聞こえた


「「「「生まれた!」」」」



みんなで声を揃え安堵する






10分程待たされた後、分娩室の中へ入ることが許された



「栞!」


中に入り、まだ分娩台の上で横になっている栞に駆け寄る


「拓…おかえり」


栞の瞳から溢れる涙


前回見た悲しい涙とは違う



「ただいま栞、待っていてくれてありがとう。俺の子どもを産んでくれてありがとう。」


栞の手を握り、彼女の額にキスをする





そこへ沐浴を終え綺麗になりタオルに包まれた赤ん坊が連れてこられた


その小さな命を看護師から受け取る


生まれたばかりの真っ赤な顔ですやすやと眠る




「海斗、明おいで」


少し離れたところで見守っていた2人を呼ぶ


「よろしく頼むよお兄ちゃん、お姉ちゃん」


そう言いながら赤ん坊を海斗に抱かせ明の頭にポンと手をのせる




守るべき愛する家族は1人増え、俺の宝物は4人となった


俺の癌は完治までまだあと数年はあるけれど


もう栞を泣かせたりしない



家族5人の幸せな未来しか見えていない




< 42 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop