つぎの春には…


5分も男がトイレ行ってたら大きい方だと思うよな…絶対




トイレの個室に入り、ドアにもたれかかり腕時計を確認する




8時55分…




はぁーと長い溜息を吐く










5分経ち、席へ戻ると杏はいなくなっていた。



急に押し寄せる緊張感…






「蓮池さん、すいません。折角お時間いただいたのに、お騒がせして…」




そう言いながら彼女の向かい側に腰を下ろす



「いえ、おかげで緊張も解けました。」



そう言った彼女の表情は言葉通りに穏やかなものになっていた。




杏と何を話したんだろう…





「杏ちゃんて可愛らしい方ですね」





…どういう意味だ


勘違いしてないよな?




「学生時代からの友人だと伺いました。それ以上でも以下でもないし、これから先も変わらないと言っていました。」





俺が思考を巡らせていると、彼女がそう付け足した



ほっとした


俺から説明するよりも杏から聞いた方が彼女は信用できるだろう





「ええ、俺の数少ない友人です。」


俺も穏やかに答える



杏のことを可愛らしいと言っていたことは少々気になるが…触れないでおこう






それから2時間程お互いの話や世間話をして、11時を回った頃



「あ、そろそろ帰らなきゃ」




腕時計で時間を確認した彼女は帰り支度を始める。




2人してコーヒー1杯で長居したもんだ






「家はこの辺ですか?」


一緒に店を出て問う




「はい、あちらへ歩いて5分くらいですね」


と指が差し示した方角は俺の家とは逆方向だった





「今日はありがとうございました。では」




と彼女が自宅へ歩き始める





「蓮池さん」



2、3歩進んでいた彼女が振り返り首を傾げる





「また、お誘いしてもいいですか?」




このまま終わりたくない




「はい、是非」と満面の笑みで答え、会釈をし自宅の方へ歩き出した






行き交う人混みの中、彼女の背中が見えなくなるまで見つめていた










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