はやく気づけ、バカ。




「桐谷くん、今からいくお店ってここの近く?」

まるで何かから逃げるように必死に見えるその姿は、俺を少しだけいい気分にさせる。

ーーまるで真島さんを無視してるみたいですよ?甘利さん。

嬉しいなあ、と思う気持ちを抑えてその問いに答える。

「近く...ですかね!歩いて10分くらいのところです!」

いつもの素直で可愛らしい後輩を演じて。

「遠くはないね。」
そういいながらこちらを見て微笑む甘利さんの姿に、ひとつ、仕掛けることにした。


「...そうですね。」

さっきまでとは打って変わる態度に、甘利さんは不思議そうにしている。
頭の上に?(はてな)が出ているのが見える。

「どうしたの?」

予想通り、心配そうに尋ねてくれる甘利さん。

「...、...」
それにも答えられないーーように見せる。


すると甘利さんの表情に、少し焦ったような色が浮かぶ。

多分、真島さんに話しかけられるかもしれない、とか思ってるんだろうなあ。
そう思うとまた少し気分が良くなった。

そしてついに表情が曇りだした時、

「あの、菜緒先輩って呼んでもいいですか?」

「......え!?」
俺は切り出した。




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