はやく気づけ、バカ。
目が合った瞬間、彼は私が座っているソファのほうに方向転換をし、歩みの歩を進める。
「こんな所でどうしたんですか?」
桐谷君と私の距離が1mほどになった時、桐谷君が私にそう尋ねた。
(座るわけではないんだ。)
内心、桐谷くんなら迷わずに隣に座ろうとするかな、と思っていたから、立ったままの桐谷くんにすこし驚いた。
「桐谷くんこそ!...資料半分持とうか?」
「いやいや、大丈夫です!
僕はちょっと資料室に用事があって。」
はは、と笑いながらこれのことです、と言うように資料を持っている腕を少し動かした。
「...それで、甘利先輩はどうしてここに?」
(...気のせいかな、)
少しだけ、桐谷くんの私を見つめる瞳が冷たくなった気がした。