【仮面の騎士王】
「あの、マノンを呼んではだめかしら」


 ケイトリンは、部屋を案内した男に声をかけた。


「申し訳ありません。ロッソ様から、決して誰にも会わせるなときついお達しで」


 ロッソからケイトリンの見張りを命じられた男は、申し訳なさそうに謝った。


「いいえ、なら仕方ありませんね」


 男に促され、ケイトリンは部屋の中に入った。そこは幼いころ兄のギースが使っていた部屋だった。普段使っていないわりには綺麗に掃除されていたが、地下にあり窓のないせいか少し湿っぽかった。


(こんなことになるなんて)


 ケイトリンは、薄暗い部屋の寝台に腰をおろしてため息をついた。さっきまで、いつもと変わらぬ日常を送り、ロッソの帰りを待っていた。自分の突拍子もない質問に否定が返ってくるはずだったのだ。だが、結果は自分の予想を大きく裏切り最悪の結果を迎えた。


(お兄様がどうしたというの)


 ケイトリンはロッソの言葉を反芻する。だが、これまでギースがランベールや父親について何かを伝えたことなど思い当らない。庶民の貧しさを訴えようと考えたのを止められたことがあったが、それも一度きりのことだ。


(だめだわ。何もわからない)


 ケイトリンは体を寝台に投げ出した。本当に、ロッソがランベールを殺したのだろうか。だとしたら、レイフの言うとおり、自分は敵の娘ということになる。


 ケイトリンは部屋を見回した。そこは、執政官長の長男の部屋としては、あまりに狭く、質素だった。まるで、閉じ込められているみたいだ、とケイトリンは思った。


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