【仮面の騎士王】
実際、口のきけなくなったギースを恥として、ロッソは世間から隠すようにして彼を育てていた。ケイトリンはロッソとギース、それぞれと食事を共にしたり出かけることはあっても、三人で何かをした記憶はなかった。もちろん、ロッソとギースが二人だけで顔を会わせることもまずないと言ってよかった。シャンタルが生きていたころには、四人で仲良く過ごしていたのだが。


(お兄様の口がきけないのは、お母様の死に衝撃を受けただけで、お兄様のせいではないのに)


 ケイトリンは目を閉じて、両手で顔を覆った。その時、ケイトリンの頭の片隅に何かが引っ掛かった。


(お母様は、どうしてペンダントの中に、あんな紙を入れていたのかしら。わざわざ台座に細工までして)


 死の前日、自分にペンダントを渡したシャンタル。はたしてそれは偶然だったのか。


 ケイトリンはぶるっと震えた。それは寒さのせいだけではなかった。


「レイフ様・・」


 ふいに、自分の唇からこぼれ落ちた音。もちろん、返事があることを期待したわけではなかったのだが。

「なんだ。またレイフ様か。ずいぶんご執心のようだな」


 ケイトリンは、手で顔を覆ったまま、目を開けることが出来なかった。


「どうして・・」


 ここにいらっしゃるのですか、と続けようとしたが、声にならない。掌の隙間から涙が頬に伝った。

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