【仮面の騎士王】
「いつも泣いているな。泣くのは君の趣味なのか、それとも仕事なのかな」


 レイフは薄く笑ってケイトリンの反撃を受けようとしたが、ケイトリンは肩を震わせるばかりで、顔を隠したまま動かない。


 レイフは唇を引き結ぶと、寝台の横に跪いてケイトリンの両腕をとった。鼻筋の通った白い素肌が露わになる。しかし、ケイトリンの美しい瞳が現れることはなかった。レイフに見えるのは、ケイトリンの目の端から流れる滴だけだ。


「ロッソに・・何か言われたのか」


 ケイトリンの唇がギュッと合わさる。


「もう、俺の顔を見るのも嫌というわけか」


 ケイトリンがロッソに何を言われたのかレイフにはわからなかった。だが、おそらく自分を悪者にする内容なのだろう。もともと自分から敵同士だと言っていたのに、なぜか心が痛んだ。

 レイフはふっと息を吐くと、立ち上がろうと腰を浮かした。


 その瞬間、ケイトリンが上半身を起こし、レイフの羽織っている黒い外套の裾を掴んだ。


「行かないでください! レイフ様」


 振り返ったレイフが、かがんだ瞬間、ケイトリンはレイフの首筋に両腕を回した。


 レイフは、目を見張った。身動きもできず、ただ彼女の体を受け止める。おずおずとケイトリンの背中に腕を回すと、こらえきれないように力強く抱きしめた。


「ケイト・・」


 レイフは自分が黒衣の装束をまとっていることも忘れ、幼いころと同じように彼女の名をつぶやいた。


「私・・、レイフ様が好きです」

< 106 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop