【仮面の騎士王】
「俺は・・、ただの盗賊だ。君の王子様じゃない」


「私も、ただのケイトリンです。執政官長の娘ではなく、ただのケイトリン。それではだめですか?」


「ケイト・・」


 耳元で名前をささやくと、ケイトリンの腕の力が緩んだ。潤んだ瞳が、息のかかる距離で自分を見つめている。レイフは、左手でケイトリンの後頭部を押さえると、彼女の唇を自分のそれでふさいだ。


「んん、レイフ様・・」


 わずかにできた隙間から息を継いで、ケイトリンは頭の奥がしびれるような感覚に陥った。


 余韻を残すようにゆっくりと唇を離すと、ケイトリンの吐息が漏れる。レイフは、ケイトリンの様子を確認しながら、今度は彼女の唇を優しく包み込んだ。そのまま歯列を割って押し入ると、彼女の舌に自分の舌を絡ませる。


「んんっ!」


 ケイトリンは突然のことに息が吸えなくなって、もがいた。しかし、レイフが彼女の体をがっちりと固定しているため、まったく離れることができない。


 苦しいことを伝えようと、レイフの胸板を叩いてみたが、腰に回されたレイフの手が、さらにきつく彼女を拘束しただけだった。次第に気が遠くなる。このまま意識を失うのかと思った頃、ようやくレイフがケイトリンを開放した。


 いつの間にか、ケイトリンの身体は寝台に横になっている。レイフに覆いかぶさられた格好だと気付き、ケイトリンは急に恥ずかしくなった。


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