【仮面の騎士王】
「やれやれ。この主にして、この侍女ありか。主を諌める仕事は放棄したのか?」
 

 男はふらふらの状態だというのに、軽口をたたくことは忘れない。

 
 マノンは「もしもあんたが、お嬢様に指一本触れたら、承知しないからね」と、じろりと男を睨んだ。
 

 マノンはもしも何かあった時には、自分の体を盾にしてケイトリンを守るつもりだった。


 それに、ここで男を兵士に引き渡すことが、ケイトリンにとって最善のことなのかマノンにはわからなかった。

 
 兵士に引き渡せば、男がケイトリンの部屋に忍び込んでいたことが噂になるだろう。噂というものは身勝手に尾ひれがつくものだ。


 もしも短慮な国王の耳に妙な噂が入れば、ケイトリンの身がどうなるかわからない。それならば、男を介抱し、さっさと屋敷から追い出した方がましなのではないだろうか。秘密を知る人間は少ないに限る。


 マノンは、一生懸命なケイトリンを見つめて、心の隅で、男がこのまま死んでくれないだろうかと不謹慎ことを願った。



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