【仮面の騎士王】
「まぁ、これも握らせたけどな」


 そういってレイフは人差し指と中指に挟んだ金貨をくるくる回して見せた。見張りがギースも閉じ込められていることを知っているかは一種の賭けだったが、もしも騒がれれば、レイフは剣を抜くつもりだった。金貨の効果なのか、ケイトリンに同情したからなのか、はたまた、ギースのことを頭の空っぽな兄だと軽くみているのかわからなかったが、結果的にレイフはすんなりと通された。


 レイフが起き上がると、寝台が軋んだ。


 距離を詰められる気配を感じたと同時に、ケイトリンはレイフに背中から抱きすくめられた。


「俺はまだ、堂々と自分の名を名乗れない。だが、近いうちに必ず仮面を外して君を奪いに来る」


 ケイトリンの長いまつげに縁どられた瞳が、大きく開かれる。


 レイフは、ケイトリンの頬に軽く口づけると、扉に足を向けた。


「あ、あのレイフ様。一つお願いが」


「なんだ」


 数歩の距離にある扉に手をかけ、レイフは振り向いた。


「私、しばらく外へは出られません。教会の子どもたちをお願いしたいのです。私の部屋のものをお金に換えて、子どもたちに食べるものを持って行っていただけませんか?」


「まったく呆れたな。自分のことより子どもたちの心配か?」


 レイフは眉尻を下げ、小さくつぶやいた。


「まぁ、そんなところが気に入ったんだが」


「えっ?」


「なんでもない。わかった」


 レイフの去った部屋は、あまりに静かでじっとしていられない気分にさせられたが、ケイトリンは祈ることしかできなかった。


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