【仮面の騎士王】
「ケイトリンは無事でしたか?」


 ギースの肩が大きく上下する。前かがみでいるのは、鞭打たれた傷が痛むせいだろうと、レイフは彼の脇腹に手を入れてギースの体を支えた。


「地下の部屋に閉じ込められてはいるが、なにもされていない。無事だ」


 レイフの言葉を聞いて、安堵したギースはやっと体重をレイフに預けた。


 ギースを見張っていた従者たちは、高いびきで廊下に横たわっている。その手には酒瓶が握られていた。酒瓶の中に眠り薬を混ぜ「お疲れ様」などと言って差し入れたのはマノンだ。部屋の窓を開け、そこから逃げ出したように細工すると、マノンはそっと廊下に出てあたりを窺った。

 
 小さな声で「こちらです」と明かりをかざしてふたりを手招きした。ギースは屋敷の離れに住んでおり普段から人の出入りはほとんどない。それでもこんな非常時だ。誰かに会うのではないかとマノンは気がきではなかった。


 もしも見つかれば、ただではすまない。ふらふらのギースを背負って逃げるのは、いくらレイフでも至難の業だ。幸い、暗闇に紛れ、3人は無事に馬小屋までたどり着いた。


「レイフ様。ギース様をお願いいたします」


 なんとかギースを馬にまたがらせると、レイフはその後ろにひらりと飛び乗る。


「マノン、君も」
 

 逃げた方がいいと続ける前に、マノンは彼らから一歩下がった。

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