【仮面の騎士王】
「いえ、ケイト様をおひとりにはできません」


「だが、従者たちに酒を飲ませたのが君だとばれたら、ロッソに捕まるぞ」


 ケイトリンはファビアンとの婚約を大々的に発表した後だ。そうそう手荒な扱いはできないだろうとレイフは踏んでいた。


「それは大丈夫でございます。私は、普段から屋敷の者たちに酒や料理を差し入れておりますから。それに、眠りこけてギース様を逃がしたとあっては、彼らも面目ありますまい。窓から抜け出したと思うでしょうから、なんとかなります。さぁ、お早く!」


「すまない、マノン。ケイトリンを頼む」


 後ろ髪をひかれる思いで、レイフは鐙を踏み、馬の腹を蹴った。


「マノン、ケイトを・・」


 馬の鬣に体を預けたギースの声が去り際にマノンに届いた。


(あなた様の声を聴くのは何年ぶりでしょう!)


 マノンは涙ぐんだ。シャンタルが火事で焼け死ぬなどという不幸がなければ、このペンプルドン侯爵家の跡取りとして何不自由なく育っていたはずなのに。


 すぐに二人の姿が闇に同化する。マノンは踵を返した。ケイトリンの世話が必要であると、ロッソに直訴しなくてならないと思いながら。
< 115 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop