【仮面の騎士王】
途端にあたりが騒々しくなる。怒号が飛び交っているのは間違いないが、何を言っているかまでは、わからない。


 黒髪の兵士が「失礼します」と言いながら部屋に入ってきた。レイフの前に来ると足の踵をかつんと鳴らし直立不動になる。


「例の賊が出ました。銃の使用を許可願います」


「やつはどこにいる?」


「正面の門で、交戦中です」


「人数は?」


「今のところ、やつひとりです」


「わかった。私が指揮をとろう」


 レイフが立ち上がり、置いてあった剣を携えると、ファビアンがその前に立ち進路を塞いだ。首だけを兵士に向ける。


「間違いなく、やつか?」


「はっ! 間違いありません。黒い装束を着て仮面をつけております。乗馬も見事でかなりすばやく、剣の扱いにも慣れている様子。すでに数名の騎兵がやられました」


 ファビアンは、押し黙ったまま動かない。


「ファビアン。何をしている。このままでは逃げられるぞ」


 レイフはファビアンを避けて足を斜め前に踏み出したが、その肩をファビアンが強く押しとどめた。


「いや、ここで待とう」


「何を言っている! さっさと捕まえなければ、また逃げられる。第一、ここには、執政官長とケイトリンもいるんだぞ。万一やつがここまでやってきたら危険だ!」


 レイフはいら立ちを隠さずに怒鳴った。だが、ファビアンは引き下がらない。


「だめだ。これはおそらく陽動だ。外で騒ぎを起こさせて、こっそり冠を盗んでいくつもりだよ」

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