【仮面の騎士王】
ケイトリンが誘拐されたことが公になっては困るのか、それとも王太子妃用の冠が盗まれたことが問題なのか、とにかくあの時あったことは、ほとんどが公にされていなかった。
巷に流れたのは、仮面の盗賊が執政官長の屋敷に二度目の襲撃を果たし、討伐の責任者だったレイフ王子がその責めを負わされフォンテーヌ公爵位をはく奪されたということだけだ。
「レイフ様は、大丈夫なのでしょうか。公爵位をはく奪されて領地がなくなるなんて、この先どうすれば」
ケイトリンの顔が陰るのを見て、フェルナンドは、一瞬真剣な顔をしたが、すぐに呑気に応じた。
「そうですねぇ。収入がなくなって、そのへんでのたれ死ぬかもしれませんねぇ」
はっとしてケイトリンの手が止まる。それとほぼ同時に背後で「誰がのたれ死ぬってぇ!?」と険をはらんだ声がした。
「もちろん、あなたですよ。元フォンテーヌ公爵レイフ様?」
フェルナンドは振り返りもせず、洗濯かごに手をのばすと、しぼられてしわだらけの塊を掴んだ。
「ふん。最初から、アルフォンス王の狙いは、俺から公爵位をはく奪することだったからな」
「え? どういうことですか?」
ケイトリンは手を止めてレイフの方を振り返る。
「あの冠は最初から偽物だったんだ。盗賊を捕えようが捕えまいが、俺に責任をなすりつけるつもりだったのさ。盗賊が逃げれば俺のせい。捕えれば本物の冠が盗まれたと言って、俺に責任をなすりつけるつもりだったのさ。気の毒にファビアンは本物だと信じていたようだがな」