【仮面の騎士王】
「その・・大丈夫か」


 ケイトリンがレイフに追いつくと、彼はバツが悪そうに尋ねた。


「大丈夫です。兄がいますし、マノンも一緒ですから。まさか兄が髪の毛を黒く染めているなんて思いもしなかったし、マノンが皆の目を盗んで冠を盗んだと知った時は、心臓が止まるかと思いましたけど」


 わずか10日前にこの教会へ匿われたとは思えないほど、ケイトリンには家から逃げ出した日の出来事が遠い昔に感じられた。当初は感情が麻痺していたせいか、なんともなかったが、今頃になってあの日のことを思い出しては、時々震えが止まらなくなった。


 ギースが兵士として部屋に入ってきたときのことや、仮面の盗賊としてファビアンと対峙していた時のこと。その隙にマノンがレイフと協力して冠を盗み出していたことを知った後は、特に恐ろしくなった。もしも計算違いのことが起きていれば、投獄されるか、下手をすれば誰かが死んでいたかもしれないのだ。


「すまない。君の気持ちを確かめずに、ここへ連れてきてしまった」


「私を助けて下さるためですもの。それに囚われていた兄も助けていただいて感謝しています」


 ケイトリンの足元で枯れ葉が、がさりと音を立てる。


「私、兄が父から暴行されていたなんて、ちっとも気付かなくて」


 幼いころから生傷の絶えなかったギース。それが、父親から受けていた暴力だということを、ケイトリンはマノンの告白で初めて知った。さすがにギースが成長してからは、そんなことはなくなっていたらしいのだが。

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