【仮面の騎士王】
ふたりのやり取りを黙って聞いていたギースが、慌てて口を挟む。


「気にする必要はないよ。ケイトには関係のないことだ」


「関係なくありません。だって、私のせいで」


「君のせいじゃない」


ギースは一段低い声を出すと、机の上に置いた両手に体重をかけ、前のめりになった。ギシリと音がして、3つの器に波が立った。


「お兄様は、ずっと私に黙っているおつもりだったのですか? 何も知らずにファビアン王子と結婚した方がよかったと思っていらっしゃるの?」


 ケイトリンがあくまで穏やかに話す一方で、ギースは声を荒げた。


「そんなわけがない! 確かに、何も知らせずにいるつもりだったのはそうだ。でも、成功すれば君を助け出せると思ったんだ。それに、万が一失敗したときに君だけは安全でいられると思ったから」


「失敗したとき?」


 その言葉の意味を咀嚼して、ケイトリンははっと息をのんだ。挙兵したものの、レイフが王になれなかったら、その時何が起こるか。当然、反乱を起こした者は処刑されるだろう。ギースがロッソの身内とはいえ、例外ではあるまい。妹であるケイトリンも計画を知っていたのではないかと疑われる可能性がある。しかし、彼女がファビアンの妻となっていれば、害は及ばないだろう。


「申し訳ありません。私、お兄様の気持ちも知らずにひどいことを・・」


 ケイトリンは、目を伏せて頬に流れた金色の髪束を掬い上げ耳に掛けた。


「いや、僕の方こそ、悪かった」


 ギースは、力が抜けたように椅子に座りこんだ。
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