【仮面の騎士王】
 どうぞ、という代わりに、レイフは自室の扉を背にしたまま、後ろに数歩下がって道を空けた。


「失礼するよ」


 言い終わらないうちに、ファビアンは、ケイトリンの腕をつかんだまま歩き始める。肩で息をしていたケイトリンは、急に引っ張られた自分の腕に体がついていかず、思わず「きゃっ!」と声を上げてつんのめった。


 反射的に足を踏み出したレイフが、すかさず片手を差しだし、ケイトリンの体を抱きかかえた。


「も、申し訳ありません」


「いや・・」


 一瞬、ふたりの視線が交差する。


 ファビアンがその空気を遮るように舌打ちした。


 ケイトリンは、急いでよろめきながら体勢を立て直すと、レイフに頭を下げ、目を合わせないように部屋の中へ急いだ。


「それで、わざわざこんなところまで何をしにきたんだ?」


 扉を閉めながら、抑揚のない声でレイフが尋ねる。


「実は、君にもどう思うか聞いてみたくてね。ケイトリンのことさ」


 ファビアンは、目玉だけを前後左右にと動かした。壁一面に並べられた書物と大きな暖炉がある以外は、とりたてて値打ちのありそうなものはない殺風景な部屋だ。ファビアンは、部屋の真ん中にある古びた椅子の背を指でなぞると、どっかと腰を下ろして眉毛を持ち上げた。


「ケイトリンの?」


 レイフは、ファビアンの後ろに立ったままのケイトリンに視線を移した。


「彼女のこと、どう思う?」


「非常に美しいと思うが、痩せすぎだな。病気だと聞いていたが、もう少し静養したほうがいいんじゃないのか?」




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