【仮面の騎士王】
 ファビアンはケイトリンと口づけたまま、視線をレイフへと向けた。そこには、公爵の地位を失い、今また美しい従妹を奪われて、プライドを傷つけられた無様な男の姿があるはずだった。だが、ファビアンの予想に反して、レイフは眉一つ動かすことなく自分を眺めている。レイフを貶めれば、自分の溜飲も下がるはずだったのだが。


 いつまでも、無反応なレイフにいい加減我慢できなくなり、ファビアンは、ケイトリンの体を離した。


「お前、なにか僕に言うことはないのか?」


「お前、ねぇ。私のことをそんな風に呼ぶのは初めてだな。ファビアン」


 ファビアンは、黙ってレイフを睨みつける。


「それで、気はすんだのか? 証人の役目とやらが終わったのなら、そうそうに退散していただきたいものだな。私も、それほど暇ではないのでね」


 レイフは立ち上がると、自ら扉を開き、壁を背にして腕を組んだ。


「来い!」


 ファビアンは来た時と同じようにケイトリンの手を乱暴につかむと、大股で出口に向かう。


 レイフは目の前を通り過ぎたファビアンの背中越しに声をかけた。


「お前も王子なら、もう少し上品に振舞ったらどうだ。お里が知れるぞ」


 その台詞が、他のどんな言葉よりも効果的であることをレイフは知っていた。


 案の定、ファビアンは飛び上がるようにして振り返ると、ケイトリンの手を払って、レイフの胸倉をつかんだ。


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