【仮面の騎士王】
「どういう意味だ。僕の母の身分が低いとでも言いたいのか」


「そんなことは言っていない。確かに父はお前の母を正式に妃にはしなかったが、アルフォンス王の正妃になったのだから、気にする必要はないだろう。たとえ・・」


 レイフはそこで、一呼吸置き、ファビアンを見下ろした。


「召使いから成りあがった女だとしても」


「きさま~!!」


 ファビアンは、呪いの言葉を吐こうとしたが、荒い息遣いでその先が続かない。その両目は血走り、全身がわなわなと震えている。


 アルフォンスが王に即位する際、反対する者はほとんどいなかった。レイフは若かったし、王弟が次の王になることは珍しくなかった。


 そして現在、アルフォンスの息子はファビアンしかいない。アルフォンスの他の子どもたちは皆、幼くして死んでいた。王位継承権を持つレイフは病弱で跡取りには不適格とみられていたため、次の王になるのはファビアンであると一応は理解されていた。


 しかし、一方でファビアンが王太子にふさわしくないという者が一定数いることも確かだった。それは、彼の母親の出自のせいであり、彼自身が幼いころから持っている劣等感でもあった。レイフが引きこもっている間はそれでもよかった。だが、レイフの堂々とした様を、舞踏会で公にさらされた後では、ファビアンの抱いた不安は大きくなるばかりだった。フォンテーヌ公爵の地位を手にしてもなお、その感情が消えることはなかった。


 実際、その勘は正しかった。レイフの姿を見た人々の間で、王太子にふさわしいのはレイフではないかと囁く人々が出始めていたからだ。



 
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