【仮面の騎士王】
着替えを手にケイトリンが部屋に戻ってきたため、ふたりの会話はいったん中断された。


 ケイトリンは、マノンが炊事場から持ってきた酒瓶を見ると素早くそれをつかんだ。慌てたマノンが「そんなことは私がやります」と言いながら酒瓶を奪い返そうとしたとき、二人のやり取りを横で見ていたレイフがあきれたように口を開いた。


「自分でやるから、それをくれ」


 レイフは寝台に腰掛けてケイトリンとマノンを見つめた。それ、と顎で指したのは、ケイトリンとマノンの手の間にある酒瓶だ。レイフの左手は自分の脇腹を押さえているが、もう片方の手は額を押さえていた。


「無茶です。ご自分でなんて、できっこありません。心配なさらなくても、私は今までに何度も兄の傷の手当てをしたことがありますから」


 最終的に酒瓶を手にしたケイトリンが、レイフに宣言する。マノンは、男の正体を知って少しばかり安心したのか、ケイトリンがレイフに近づくことに対して、当初ほどの警戒心を持っていなかった。世間の評価とは違い、マノンの中ではレイフは優しく聡い少年だった。


「そんなに怪我をするなんて、あなたの兄はならず者か? 俺と同じように?」


「いいえ。そんなことはありません」


 ケイトリンが目を伏せて俯くと、長いまつげが静かに揺れた。



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