【仮面の騎士王】
「兄は・・、ギースは口がきけないのです。そのせいでよくいじめられて怪我をすることが多かったから」


「そうだったのか。耳が聞こえないせいで口がきけないのか?」


「いいえ、耳は聞こえていますが、しゃべることができないんです。10歳の時に母が亡くなって、多分そのショックのせいだと思います。私より一つ年上ですが、それまでは普通に話せていましたから。何人ものお医者様にかかりましたが、だめでした」


「なるほど。それは、辛い思いをしたな」


「はい。今も、ギースは苦しんでいます」


「違う。兄のことじゃない。一つ年上ということは、あなたも9歳の時に母を亡くしたということだろう。あなたが辛い思いをしたと言ったんだ」


ケイトリンは、顔を上げてレイフを見つめる。思いもかけないレイフの言葉だった。


「どうした?」


「い、いえ。なんでもありません。それよりも、私が怪我の治療ができることを納得されたなら、横になってください」


口調は穏やかだが、ケイトリンの瞳はその意思の強さをはっきりと示すように大きく輝いている。レイフがケイトリンの後ろに立っているマノンにちらりと目をやると、マノンは小さく頷いた。


ケイトリンはレイフの両肩に手を置くと、後ろに倒すように軽く力を込めた。と同時に、レイフはふっと口元を緩める。


「わかった。今夜はあなたに押し倒されることにしよう。普段は俺が押し倒す方なんだがな」


「お、押し倒したりなどしておりません!」


ケイトリンが思わず両手を離したときには、レイフはもう寝台に横になっていた。レイフを睨むように視線を投げると、彼の魅力的な瞳に見返された。ケイトリンは耳まで赤くなりながら、レイフの傷口の下に布を敷く。



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