【仮面の騎士王】
布を酒で湿らせると、傷口をぬぐおうとしてケイトリンが一瞬手を止めた。


「少し、痛むと思いますけど」


「そういうのが、お好みかな?」


「お好み?」


 ケイトリンは返ってきたレイフの言葉が自分の予想に反するうえ、意味がわからず、顔を傾けた。その後ろでは、意を解したマノンがレイフを軽く睨んでいる。


 レイフはふっと口元に笑みを浮かべると、ケイトリンに背を向けるように横向きの恰好になった。


「いや、なんでもない。痛いのには慣れている」


「それでは、失礼します」


 傷口を押さえていた布は、すでに赤く染まっている。その布をはずしてケイトリンが消毒を始めると、傷口から血が滲み始めた。


 それにしても恐ろしいくらいに体が冷えている、とケイトリンは思った。雨に濡れたレイフの体は、着替えたくらいで簡単に温まりそうはなかった。唇が青いのは、雨に濡れたうえ、出血したせいで極端に体温が下がったせいだろう。


 手当てをしている間、レイフは一言も発しない。ケイトリンは彼が辛いのではないかと心配したが、レイフの腕が顔にかかっていたため表情を読むことはできなかった。


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