【仮面の騎士王】
 ケイトリンは床に座ったまま、寝台にもたれていた姿勢を正した。


「本当は外したかったんです。雨でぬれていたから。それにあなたの素顔に興味がないと言えば嘘になります。けれど」


「けれど?」


「こっそり素顔を見るくらいなら、初めから兵士を呼んでおります」


「なるほど。では、なぜ俺を助けた?」


「なぜと言われても」


 自分でも、どうしてこんな無謀な行動に出たのか、良くわからなかった。単なる好奇心のような気もするし、マノンの言うように犬や猫を拾ったような感覚だったのかもしれなかった。


「俺が、世間を騒がせている仮面の盗賊だとわからなかったのか?」


「仮面の盗賊?」


 そう言われて、ケイトリンは初めて彼が盗賊だったことを思い出した。


最近、頻繁に城下を荒らしている一匹狼の盗賊がいるというのは、聞いたことがある。なんでも、金持ちの貴族の館を襲っては、金品を貧民に分け与えるらしく、大衆から義賊だと支持されているという噂だった。


「なるほど。少しは有名になったかと思ったが、俺もまだまだらしい」


「いえ、噂なら聞いたことがあります。剣の達人で、盗みはしても殺すことはないと」


「殺さないと誓っているわけじゃない。今まではその必要がなかったから殺さなかっただけのことだ。あなたは、もう少し俺を怖がった方がいい」


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