【仮面の騎士王】
(怖い。そうよね。盗賊を怖がらないなんておかしいわ。どうして怖くないのかしら)


 ケイトリンは、レイフの行動に驚くことはあっても、なぜだか彼を怖いとは感じなかった。一晩一緒に過ごした今となっては、ずっと昔から知っている友人のような気がしていた。


 ケイトリンの沈黙を恐怖ととったのか、レイフは寝台を下りて立ち上がり、床に座っているケイトリンから距離をとった。


「悪いが、最初から言っている通り、俺は盗賊だからな。助けられたからと言ってあなたに感謝なんてしない。本当なら、金目のものを盗んでいくところだが、あなたからは」


 そこで、言葉を切り、レイフはケイトリンの唇を見て笑みを浮かべた。


「もうすでに、盗んだ後だから、これ以上盗むのはやめておこう」


「盗んだ後?」


 ケイトリンは部屋を見回した。特にこれといって何かがなくなっているような様子はない。はっとして自分の胸元に手をやった。母の形見である蒼玉のペンダントは彼女の胸にかかっている。


「あの、何もなくなっていないようです」


「いや、この部屋で最も価値のあるものをいただいたよ」


「でも、母の形見は、ちゃんとここにあります」


 もしや、今から力づくで奪われるのだろうかと思い、ケイトリンは蒼玉を握りしめた。


「唇をいただいた」


「え?」


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