【仮面の騎士王】
「レイフ様?」


 レイフは左脇腹を押さえ、眉間にしわを寄せている。体を丸め、息が荒い。ケイトリンは、その様子を見て、ただ事ではないと感じた。


「レイフ様! 申し訳ございません。私のせいでお怪我をなさったのですね? 今、誰か呼びます!」


「なんでもない。誰も呼ばなくていい」


「でも! なんだかお顔の色も悪い気がします」


 ケイトリンは、宮殿の方向へ顔を向け、息を吸った。


「誰か! 誰か、うっ、んん」


 大声で人を呼ぼうとしたケイトリンの口を、レイフは大きなごつごつとした手でふさぐ。


「頼むから、誰も呼ぶな。あなたはもう戻れ。大広間はそこの石畳を右に折れて廊下を進めばいい。わかるな?」


「でも」


 レイフの額からは、玉のような汗が噴き出している。


「心配しなくてもいい。ここは、私の住んでいる離れだ。すぐそこに使用人がいる。めったに踊りなど踊らないのに、あなたと踊るのが楽しすぎて調子に乗ったせいで、疲れたようだ。それとも、あなたはこんな情けない姿をした私を人目にさらそうというのか?」
 

 レイフの顔に浮かんだ笑顔はぎこちなく、嫌味な言葉は虚勢を張っているように思える。ケイトリンは、人を呼ぶべきだと思ったが、彼の言葉通り、転ぼうとした自分を助けて怪我を負ったなどという話が、彼にとっては不名誉なことなのだろうかと考えた。


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