【仮面の騎士王】
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庭園を横切って自分の部屋に歩く途中で、レイフは急に立ち止まると暗闇に向かって話しかけた。
「言いたいことがあるなら聞くぞ、ギース?」
レイフの言葉に促されるように、薔薇の茂みの中から人影が表れた。
ギースは頭から被ったフードをゆっくりと取った。月明かりの下に、切れ長の青い瞳と良く通った鼻筋が露わになる。それは、ケイトリンの面立ちによく似ていた。男女の違いはあるが、知らない人間に双子だと説明すればすんなり信じてもらえそうだった。
ギースは、外套についた夜露を手ではらいながら、呆れたように鼻をならした。
「言いたいことだらけで、何を言いたかったのか、わからなくなりましたよ」
「そうか。なら、言いたいことはない、ってことで、いいな?」
レイフは、にやりと笑ってギースを振り返る。
ギースは、口をへの字に曲げて言葉にできない抗議を主張した。
「なんだ、やっぱり何か言いたいんじゃないか」
ははは、と笑いながらレイフは再び歩き始めた。
「当然でしょう。目の前で大事な妹に、あんなことされて、黙って隠れていなきゃならないなんて。レイフ王子がどんなにひどい男か、きちんとケイトに言って聞かせないと」
「口のきけない呆けた兄の仮面をかぶっている誰かさんの方が、よほどひどい男なんじゃないのか」
痛いところをつかれ、ギースは押し黙った。明るい見た目とは逆に、ギースは真面目でどちらかといえば悲観的な性格だった。