【仮面の騎士王】
「マノン。大丈夫よ。話せばわかるわ」


「何をおっしゃっているのです! こんな狼藉を働くならず者に、言葉など通じるわけがございませんよ!」


「でも・・」


 ケイトリンはマノンに反論する言葉が見つからなかった。マノンの言うことはもっともで、勝手に部屋に侵入したこの男を、自分ももっと警戒すべきだとは思う。だが、ケイトリンはこの男が警戒すべき乱暴な男には思えなかった。


 不埒な真似をするなら、雷におびえる自分に優しくするようなまねはしないだろうし、第一、彼に抱きついた自分に、見知らぬ男に抱きつくのは良くないなどと助言をするだろうか。
 

 男の態度は、どこか高貴さを感じさせて、危険な人物には思えなかった。
 

 ケイトリンはマノンに近付こうと男に背を向けて歩き出そうとした。その途端、男はケイトリンの腕を引き、彼女の細腰に背後から腕を回す。


「なるほど。このお嬢様が、かの有名なケイトリン嬢か」
 

 男は口元に笑みを浮かべると、ケイトリンの喉元に長い剣の切っ先を突きつけた。


「声を上げるな。声を上げれば、未来の王妃様がどうなるかわかるな?」


「マノン・・」


「ケイト様!」


 マノンは右手で引き攣った頬を押さえた。マノンにとってケイトリンはただの主ではない。亡くなった実母に代わり、幼い時から乳母として世話をしてきた、本当の娘のような存在だ。


「なんでもやるよ! 金でも宝石でも好きなものを持っておいき! けど、お嬢様に手を出すんじゃないよ!」


「おっしゃる通り、俺はならず者だからな。ミルドの蒼玉と謳われるケイトリン嬢をいただいていこうか」




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