【仮面の騎士王】
「いったい、どうしたんでしょうね、あの子ども」
　　

　マノンはケイトリンの服に付いた土埃を払いながら、彼女の周りを一周する。


「怪我をしていないといいんだけど」


　すでに、少女の後ろ姿は見えない。泣き声が途絶えると、人垣は自然に消滅し、元の人の流れを取り戻した。


「大丈夫でございますよ。あれだけ機敏に動けるのだから」


――そうだね。怪我はしていないようだった。君の方は大丈夫かい？


「ええ、大丈夫よ。私は何ともないわ」


　答えながら、ケイトリンは、ギースが自分の胸元を見つめて眉間にしわを寄せていることに気付いた。


「お兄様？　どうかした？」


　ギースの視線を追いかけて、自分の胸元に目をやる。その瞬間、彼女の目が大きく見開かれた。


「ペンダントがないわ！　お母様の形見の蒼玉のペンダントが！」


　ケイトリンは、いつもあるはずのペンダントを確認するように、胸の上で何もない空間を握りしめた。


「まぁ！　なんてことでしょう。いつの間に」


――やられたね。多分、さっきの子どもたちだ。よく計画されているし、手慣れている。このあたりも、あまり治安がよくないようだ。


　ギースは、舌打ちをした。自分がついていながら、なんということだ。


「私、私、探してきます！」


　ケイトリンは、少女が走り去った方向に走り出した。猛然と人ごみをかき分ける。ぶつかった人たちは迷惑そうな顔をしてケイトリンの背中を見つめる。


「ケイト様!!」


　慌ててマノンが後を追おうとするが、ギースが肩をたたいて制止した。


――僕が行くから、マノンはその店で待っていて。


　通りの向こうにある小さなカフェを指さされ、マノンは頷いた。


　ギースは身をひるがえして、走り始めた。すぐに追いつけると思ったが、ケイトリンが意外に足が速いのか、人ごみに紛れてしまったせいか、ギースはケイトリンの姿を完全に見失った。


　前後左右を見渡しながら、ギースは心の中で2度目の舌打ちをした。


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