【仮面の騎士王】
ケイトリンにはレイフの真意がわからない。真正面からレイフを見つめて、彼がその意味を説明してくれるのを待った。


「君は、本当に男を知らないんだな」


「そんなことありません。ちゃんと知っております」


 レイフは、ケイトリンの意外な言葉に眉をひそめた。


「君が男を知っているだって? まさか、俺の知っている男かな?」


 レイフは、半信半疑で茶化すように尋ねる。


「もちろんですわ。ファビアン様」


「ファビアン、だと?」


 ケイトリンは、一瞬背筋に冷たいものを感じた。ファビアンの名前を聞いた途端、レイフの眼光が鋭くなったからだ。


「ケイトリン、まさか、すでにあいつを知っているというのか」


「何をおっしゃっているのですか。婚約者を知らないはずがないでしょう?」


 レイフは、ケイトリンの両肩に手を置くと、彼女を見下ろした。


 長いまつげに縁どられた宝石のような輝きを持つ青い瞳。その下には、艶やかなピンク色の唇が誘うように言葉を紡いでいる。華奢な肩から延びる肢体。やわらかな二つのふくらみ。肌を露出した服装でなくても、女性らしい優雅な曲線美が見て取れる。


「もう一度確認するが・・。君はファビアンの何を知っているんだ?」


「何をって。ファビアン様は男性ですよ。あなただってご存知ではありませんか」


 レイフは虚を突かれて、すぐには反応できなかった。ケイトリンが男慣れしていないことなど明らかだったはずではないか。ふっと息を吐くと、自分の勘違いに笑いがこみあげてくる。しばらくは「くく」とおかしな声を上げて我慢したが、結局大きな声で笑い出した。腹部が痛くて思わず左手で押さえた。


「レイフ様?」


 ケイトリンは、どうしていいかわからず、レイフの顔を下から覗き込んだ。


「もういい、言うな」


 レイフは、右手を彼女の腰に巻きつけて自分の体にぴたりと引き寄せた。

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