【仮面の騎士王】
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「あぁ、ケイト様。御無事で良かった! なかなかお戻りにならないから、心臓がつぶれそうで生きた心地がしませんでしたよ。それで、ペンダントは見つかったのでございますか?」
マノンは、ケイトリンの身体のあちこちを何度も触る。そうしないと無事であると納得できないようだった。
「ペンダントはなくなってしまったわ。ごめんなさいね、マノン。お兄様も、申し訳ございませんでした」
ケイトリンは、はっとした。そういえば、自分は大事な母の形見のペンダントを探していたはずだった。マノンに尋ねられるまで、すっかり失念していた。
ケイトリンは、下げた頭の下で目を伏せた。謝ったのは、もちろん心からそう思ってのことだし、マノンの態度からも、自分の軽率な行動を悔いた。だが、彼女が考えているのは別のことだった。
レイフと別れたのは、ついさっきのことだ。レイフの後を追っている途中で、彼女を捜しているギースと行きあったのだ。ケイトリンをギースに任せると、レイフは、儀礼的な挨拶だけを残して去って行った。
――まさか、レイフ王子と一緒にいるなんて驚いたよ。
「道に迷って困っていたら、たまたまレイフ様がいらっしゃって、家まで送ろうとしてくださったの」
どこまでを二人に話すべきか迷った末、ケイトリンは、真実を伏せることにした。これ以上心配をかけたら、マノンの心臓がもちそうにない。
「本当に、ご無事でなによりです。ペンダントのことは残念でしょうが、この辺りは、一本裏通りに入ると、ひどい治安だと聞きますからね」
「そういえば、国一番の貧民街だとレイフ様がおっしゃていたわ。でも、ここはラシェルの繁華街でしょう? ラシェルはミルド国の第一都市なのに、なぜ貧民街などができるのかしら」
「それは・・」
言葉に詰まったマノンの代わりに、ギースが応じた。