【仮面の騎士王】
 引っ張り出された庭の真ん中で、10歳くらいの少年が、大きな声で笑った。彼は、ぼろぼろの黒い布を肩にかけ、同じ布で目もとを覆っている。


 ケイトリンは、どきりとして、その少年を見つめた。


「悪者? どうして、“ケイトリン”は悪者なの?」


「そりゃあ、悪徳執政官ロッソの娘だからだろ!」


「悪徳執政官・・」


「そうさ。ケイトリンが王太子と結婚するんで、また税金が上がったんだってさ! そして俺様は、悪の貴族たちをやっつける仮面の騎士だ!」


 少年は、右手に持った棒切れを振り回すと、ポーズを決めて、にっと歯茎を見せた。他の子どもたちは、大きく拍手をしてはやし立てる。


「いいぞ、ニルス!」


「やれやれ!」


 ニルスと呼ばれた少年は、声援を受けると教会の入り口にある階段を駆け上がった。


「よしっ、みんな、ついて来い! この、仮面の騎士が天に代わって、悪の貴族をやっつけてやるぞ! これは、もともとお前たちのものだ。遠慮せずに受け取れ!」


 ニルスは、左手を空に向けて大きく振り上げた。掌に握られていた小石がぱらぱらと地面に散らばる。


「おおっ! 金貨だ!」


「俺たちの払った金だ! 仮面の騎士が取り戻してくれたぞ!」


 少年たちがつぎつぎに地面に散らばった小石を拾っていく。


 ケイトリンは、あっけにとられてその様子を眺めた。




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