【仮面の騎士王】
――舞踏会に関係する職業、例えば、貴族専用のドレスの店や食品店などは繁盛しているかもしれない。けれど、それはほんの一部の人間に限られている。それに本来地方を治めているはずの貴族たちがラシェルに留まって遊んでいる分、地方の領地に目が届かなくなって荒れているんだ。


「そんな。それでは、地方の民は生きていけないではないですか。それに、綿織物だって、それぞれの地域で生産されているのでは?」


 ケイトリンは、ぞっとした。ミルド国の主要産業は綿織物だ。そのほとんどは、地方で生産されており、ラシェルはただそれを集めて輸出しているから潤っている港町にすぎないのだ。


――その通りだよ。そして、地方で食べられない民が職を求めてラシェルのような都市にやってくる。けれど、運よく職を手にできるとは限らない。なにせ、税金が上がって暮らしていけないのは、ラシェルの民だって同じだからね。


「そして、貧民街ができる」


――そうだね。特に子どもはひどい。まっさきに親に捨てられるからね。


 昼間見た光景を思い出して、ケイトリンは目を伏せた。何か、自分にできることはないだろうか。


「お父様は、どうお思いなのでしょうか?」


 ふと、子どもたちが、ロッソのことを“悪徳執政官”と呼んでいたことを、ケイトリンは思い出した。父親が悪く言われてはいたが、そのことをロッソ自身知らないのかもしれない。


 ミルド国では、執政官は王直属とされ、国を7つの地域に分けたそれぞれの政務と軍務を掌握し、貴族の監視を行っている。中でも、第一都市ラシェルを含む地域を統括する執政官は、執政官長と呼ばれ、王の相談役のような立場にある。


 つまり、王を除けばこの国の最高権力者であり、ロッソは10年前からその執政官長の地位にある。


 ロッソに頼めば、何とかなるのではないかと、ケイトリンは考えた。

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