【仮面の騎士王】
「私、お父様に相談してみます。税金を下げて、民の暮らしが楽になるように」


 それが、いちばん近い解決策のように思えた。


 しかし、突然ギースが机をドン、と叩いて立ち上がった。青ざめた表情で、唇を震わせている。


――だめだ!!


 ギースは、驚くケイトリンの両肩を上から押さえつけ、首を横に振った。


――いいかい、ケイトリン。父上には、決して今日の話はしないでくれ。孤児を世話していることも、絶対に言ってはダメだ。いいね?


「お、お兄様!?」


 ケイトリンは、穏やかな兄の豹変した姿に、おののいた。一度も見たことがない表情をしている。


 ギースは、一呼吸置いて、頭を下げた。


――あぁ、すまない。ケイトリン。乱暴だったからびっくりしたね。


「お兄様、何か変です。いったい、どうなさったの? それに、お父様に言ってはいけないなんて、なぜです?」


――なんでもないよ。君に、母上のようになってほしくなくて。


「お母様?」


 ケイトリンはギースの唇を読んで驚いた。間違いなく「母上のように」と動いたように思えた。しまったというように目を見開いて、ギースは手で口元を押さえた。


――ごめん、なんでもないんだ。本当に。ただ、口がきけなくて厄介者扱いされているのに、貧民街に君を連れて行ったなんてことを父上に知られたら、この家を追い出されてしまうよ。


 ギースは、両手を合わせて、ケイトリンに困った顔をして見せた。


「わかりました。お父様には今日のことは黙っています」


――ありがとう、ケイトリン!


 ギースは、座っているケイトリンに覆いかぶさるようにして優しく肩を抱くと、額に唇を寄せた。


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