【仮面の騎士王】
(私ったら、どうしてこんな大事な日のことを忘れていたのかしら)


 城へ向かう馬車に揺られながら、ケイトリンは外を眺めた。


 寝不足のせいでうっかりしたと言えば確かにそうなのだが、以前なら城に上がる日が、こんなにすっかり頭の中から消え去ってしまうことなどなかったはずだ。


 初めて王宮舞踏会に出る日は、あと何日と指折り数えていたし、ファビアンやアルフォンス王に会うことも、緊張はしたが、どちらかと言えば楽しみな出来事だった気がする。


(花嫁になるって、もっととても素敵なうきうきすることだと思っていたけれど、こんなものなのかしら。それとも私がおかしいのかしら)


 ケイトリンは、考えながら胸に手を当ててはっとした。


 いつも、悩みごとのある時や不安な時は母の形見のペンダントを握りしめるのが彼女の常だった。そうすれば、シャンタルが力を貸してくれそうな気がした。


 しかし今、ケイトリンの手はただ空気を掴んだだけで、握りしめた拳はなんの力も与えてくれそうになかった。



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